イギリス不信任投票の前にわかっておきたいこと
イギリス不信任投票の前にわかっておきたいこと
16日の下院審議の様子はこちら
「英国・EU離脱協定」の否決
さて、英国現地時間の1/15に英国のEU離脱協定案に対する「意味ある評決」が行われました。結果はご存知の通り、202対432で否決となりました。保守党からは118人が造反しました。そもそもこの投票は昨年の12月11日に行われる予定でしたが、その前日10日の議会動議で延期されていました。12月の投票延期・党内不信任投票
延期された背景には、どうやら議会で否決されそうだという事前予測を覆すことができなそうだ、ということが明白だったことがあります。延期することで少しでも反対の数を減らし採択の可能性を高められるのではないかという一縷の望みに賭けたといったところでした。その後、12日には少数与党・保守党は党首不信任投票のための条件(15%以上の署名)を満たしたことで、党内でのメイ首相(党首)に対する不信任投票が行われました。投票の結果、メイ首相は党内で信任され(200-117)、翌日からのブリュッセルでの欧州理事会に出席しました。13日の夕食会では予定になかったBREXITも話されたものの、EU側は現行の離脱協定が最善であること、再交渉はしないこと、他方で協定や政治宣言の更なる明確化に応じました。その後、英国議会はクリスマス休暇入りしてしまいました。そして議会は先週1/7より再開し、14日の週(今週)に「意味ある評決」を行うとしていました。政府に対する不信任決議の動議提出
15日の協定案否決を受けて、メイ首相は野党(労働党)より公式な不信任決議が出された場合、翌16日に審議する意向を示しました。これに応じる形で、労働党のコービン党首は政府に対する不信任投票を動議しました。メイ首相は、議会の信任を得た場合、先日なされた修正により3開会日(21日)までに代替案を議会に報告するため、閣外協力関係にあるDUPや野党などと建設的な議論を行うとしています。可決された場合
16日に行われる不信任決議が可決された場合、14日以内に新たな信任を議会から得られる政府が形成されなければ、解散総選挙が実施されます。解散総選挙の実施のため、議会は選挙実施日の17平日前に解散されます。否決の公算が高い
しかし、閣外協力関係にあるDUPは、離脱協定案が議会投票で否決された場合、メイ政権を信任するという立場を示していますし、保守党内の強硬離脱派・ERGも政権を信任するとみられており、政府に対する不信任動議は否決される公算が高いとされます。信任されれば21日(まで)に代替案を提示
代替案とされるのは、①現行・離脱協定案の再投票、②修正・離脱協定案の再投票、③2回目の国民投票の実施、④議会任期固定法の例外である3分の2以上の賛成による解散総選挙、などになります。何もしなければ3月29日に離脱、だが離脱日延期の可能性
また、何もしなければ3月29日に英国が「合意なき離脱」を行うことは確定しています。そのため、EU条約50条に基づく離脱日延期の欧州理事会への要請が行われる可能性が考えられます。EU側は、離脱日延期そのものを拒む必要性はないとの姿勢を多くが示しています。しかしながら、何のための離脱日延期を行うのか、延期したところで何が実現可能なのか、といった疑念もあります。また際限のない離脱日延期は考えられません。EU予算との関係では離脱協定で基本的には現行多年次予算期間の2020年までの英国による拠出は合意されており、生じる問題は少ないでしょう。他方で、英国が予定通り離脱することを前提に準備されてきた5月23-26日の欧州議会選挙には影響する可能性があります。このあたりの日程感が離脱日延期の期間には反映されるでしょう。少なくとも、2回目の国民投票の実施や解散総選挙を実施する場合には、実施後の議会審議期間も考慮した離脱日延期が十分に行われうると考えます。離脱撤回という妙手/禁じ手?
もう一つの選択肢があるにはあります。英国によるEU離脱の撤回です。法的には一方的行為で行われるとの判断が欧州司法裁判所(CJEU)より昨年示されています。これは法的関係を明らかにしたものであり、EU側の政治的意図がそこに介在する余地はありません(EU側が離脱を望んでいないというのは邪推です)。したがって、離脱が撤回された場合、それが現実にどのような影響を及ぼすのか未知数です。上に挙げた次期・欧州議会の構成にも影響がありますし、すでに議論されている2021年-27年の次期多年次予算をめぐる議論も振り出しに戻される可能性があります。さらには、英国が離脱することを前提に前進がみられた諸分野や離脱取りやめ後の英国のオプト・アウトの扱いなども影響が及ぶと考えられます。他方で、離脱撤回をする場合、2016年6月の国民投票で示された民意をどのような民主的手段で覆すのか、という問題もあります。民主的統制を受けない離脱撤回は危険です。解散総選挙の場合、保守党は離脱を訴えるでしょうが、労働党が離脱撤回を訴えることができるのかは疑問なしとはしません。
2回目の国民投票の場合、そもそも「EU残留」を選択肢に加えるのか、ということにも議論があります。1回目の国民投票で離脱は決まったのであり、あくまでも離脱の種類のみを選択肢とするべきという考えがあります。しかし、その選択肢というのも、「現行・離脱協定による離脱」、「合意なき離脱」が現実的であり、いわゆる「ノルウェイ+」や「CETA+」などはEU側とまったく詰められていない以上問われるべき選択肢ではないでしょう。