北マケドニア共和国へ、国名変更は現状を変えるか
バルカン半島といえば「ヨーロッパの火薬庫」として世界史の教科書で扱われますよね。そんなバルカン半島に位置するマケドニア共和国(FYROM)で現在行われているのが「国名変更」です。
国名変更が成功裏に行われると、「北マケドニア共和国」のEUやNATOへの加盟の展望がひらけることになります。それがザーエフ首相の目指すところです。もちろん、それ自体も一筋縄ではいかない課題ですが、国名変更が平和裏に成功しないとそもそも現状では実現可能性がゼロなので、重要な一歩となります。
国名変更のあとにまず実現されるのはNATO加盟です。EUは条件に厳格で柔軟性がほとんどありませんが、軍事同盟であるNATOは比較的柔軟です。西バルカンはNATOにとっては安定を欲する地域ですが、未加盟国が残されています。オープンドア政策をとるNATOの最新の拡大は2017年のモンテネグロでした。「北マケドニア共和国」はその次を狙える位置にいます。
マケドニア議会での憲法改正の審議は薄氷を踏みながらも前進しました。10月には審議開始が3分の2以上を得て可決されました。そして、1月にはついに憲法改正が成立します。
マケドニアでの国名変更の憲法改正が成立したことで、連立からの離脱があり、チプラス首相は13日に議会に対し政府への信任動議を提出しました。これを受けた議論ののち、16日に行われた投票で定数300うち過半数ぎりぎりの151票を得て、チプラス内閣は信任され政権は維持されました。
国名変更が成功裏に行われると、「北マケドニア共和国」のEUやNATOへの加盟の展望がひらけることになります。それがザーエフ首相の目指すところです。もちろん、それ自体も一筋縄ではいかない課題ですが、国名変更が平和裏に成功しないとそもそも現状では実現可能性がゼロなので、重要な一歩となります。
国名変更のあとにまず実現されるのはNATO加盟です。EUは条件に厳格で柔軟性がほとんどありませんが、軍事同盟であるNATOは比較的柔軟です。西バルカンはNATOにとっては安定を欲する地域ですが、未加盟国が残されています。オープンドア政策をとるNATOの最新の拡大は2017年のモンテネグロでした。「北マケドニア共和国」はその次を狙える位置にいます。
マケドニアって?
マケドニアの場所を確認したいと思います。南はギリシャ、東はブルガリア、西はアルバニア、北はセルビアとコソボと国境を接しています。かつてのユーゴスラビアを構成していました。独立当初から国名問題が発生
なぜ国名が問題となっているのか。細かい話は抜きに、現在のギリシャ北部にマケドニア地方があります。そもそもマケドニア地域は現在のマケドニア共和国・ギリシャ・ブルガリアにまたがる地域でした。そのため、ギリシャはマケドニア共和国が「マケドニア」と名乗ることを認めてきませんでした。ギリシャが認めないことでどのような不利益がマケドニア共和国に生じてきたのかといえば、ギリシャの加盟するEUやNATOへの加盟手続が事実上ストップされてきました。政権交代という青信号
では、今なぜ「国名変更」が俎上に載っているのか。直接の契機はマケドニアにおける政権交代に遡れます。2017年5月、議会第2勢力の政党連合「社会民主同盟連合」のザーエフ代表がアルバニア系少数政党との連立を組みました。現在の議会構成は2016年12月11日に行われた選挙に基づいています。ブルガリアの援護射撃
また、ブルガリアとマケドニアの善隣友好条約が2017年8月2日に署名されています。これは2017年6月20日のザーエフ首相のブルガリア訪問時に発表されていました。そして、両国で2018年1月に批准されています。ギリシャとの交渉活発化、プレスパ合意へ
ギリシャとの交渉は2017年後半から活発化しています(下の表を参照)。最終的に二国間の交渉は2018年6月に合意に至りました(通称「プレスパ合意」)。合意の細かな内容は置いておくとして、マケドニアが合意を批准し「北マケドニア共和国」へ国名変更のための憲法改正を行うことを条件に、今度はギリシャが合意を批准するということになりました。不成立の国民投票からの憲法改正審議入り
マケドニアでは拘束力のない国民投票が2018年9月末に実施されました。国民の支持を得て、議会基盤の脆弱なザーエフ政権としては、憲法改正に必要な議会での3分の2の票(80票)を得るための正統性を高めることが期待されていましたが、投票率は30%台にとどまり不成立となりました。とはいえ、憲法改正の手続きに進んでいきます。マケドニア議会での憲法改正の審議は薄氷を踏みながらも前進しました。10月には審議開始が3分の2以上を得て可決されました。そして、1月にはついに憲法改正が成立します。
ギリシャの批准を残すのみ
こうなると、残すはギリシャによる議会批准を残すのみです。しかし、ギリシャはギリシャで連立与党の議会基盤は弱い状況にあります。年内には議会選挙も予定されており、与党は敗色濃厚となっています。合意の批准を進めたいチプラス政権の側でも連立内には反対意見もあり、離党や除名が生じました。しかし、総選挙後に与党となると見込まれるNDは合意に反対する立場であり、現議会構成のうちに批准を行いたいというのがチプラス政権の姿勢です。またNDにとってもそれが望ましいという現実的判断があるとされます。マケドニアでの国名変更の憲法改正が成立したことで、連立からの離脱があり、チプラス首相は13日に議会に対し政府への信任動議を提出しました。これを受けた議論ののち、16日に行われた投票で定数300うち過半数ぎりぎりの151票を得て、チプラス内閣は信任され政権は維持されました。
これまでの経緯
- 2017年6月 ディミトロフFYROM外相がギリシャ訪問(コジアス希外相と会談)
- 2017年8月 ギリシャ・FYROM信頼醸成措置会議(アテネ)
- 2017年同月 コジアス希外相がFYROM訪問(ディミトロフFYROM外相と会談、イヴァノフ大統領、ザーエフ首相を表敬)
- 2017年9月 国連総会(コジアス希外相はディミトロフFYROM外相、ニミッツFYROM名称問題国連事務総長特別顧問と個別会談)
- 2017年10月 第2回バルカン4か国閣僚会合(ギリシャ、アルバニア、ブルガリア及びFYROM)@テッサロニキ
- 2017年12月 ニミッツFYROM名称問題国連事務総長特別顧問、ヴァシリアキス希交渉官及びナウモフスキFYROM交渉官がブリュッセルにて、マケドニア名称問題の解決に向けた交渉を再開
- 2017年12月31日~ ザエフFYROM首相がテサロニキを私的訪問(滞在中、チプラス希首相及びコジアス希外相と電話会談)
- 2018年1月 オズマニFYROM欧州担当副首相がギリシャを訪問(コジアス希外相及びカトゥルンガロス希副外相と会談)
- 2018年同月 ディミトロフFYROM外相がギリシャ訪問(コジアス希外相と会談)
- 2018年同月 ニミッツFYROM名称問題国連事務総長特別顧問、ヴァシリアキス希交渉官及びナウモフスキFYROM交渉官がNYにて、FYROM名称問題の解決に向けた交渉を実施
- 2018年同月 世界経済フォーラム(マージンで、チプラス希首相とザーエフFYROM首相とが個別会談)
- 2018年同月 ニミッツFYROM名称問題国連事務総長特別顧問がギリシャを訪問(コジアス希外相及びクムツァコスND外交担当と個別に会談)
- 2018年2月 コジアス希外相がウィーンを訪問(ディミトロフFYROM外相及びニミッツFYROM名称問題国連事務総長特別顧問と会談)
- 2018年3月 コジアス希外相がFYROMを訪問(ザーエフFYROM首相及びディミトロフFYROM外相と会談)
- 2018年同月 コジアス希外相がFYROMを訪問(ニミッツFYROM名称問題国連事務 総長特別顧問仲介の下、ディミトロフFYROM外相と名称問題に関する交渉)
- 2018年4月 コジアス希外相がFYROMを訪問(ディミトロフFYROM外相と会談)
- 2018年同月 コジアス希外相がウィーンを訪問(ニミッツFYROM名称問題国連事務総長特別顧問仲介の下、ディミトロフFYROM外相と名称問題に関する交渉)
- 2018年5月 第3回4か国(ギリシャ・ブルガリア・FYROM・アルバニア)外相会合(マージンで、コジアス希外相とディミトロフFYROM外相とが個別会談)
- 2018年同月 ニミッツFYROM名称問題国連事務総長特別顧問仲介の下、コジアス外相とディミトロフFYROM外相が名称問題に関する交渉
- 2018年同月 EU・西バルカン首脳会合@ブルガリア(マージンで、チプラス希首相とザーエフFYROM首相が個別会談)
- 2018年同月 米国にてニミッツFYROM名称問題国連事務総長特別顧問仲介の下、ディミトロフFYROM外相と名称問題に関する交渉
- 2018年同月 EU外務理事会(ブリュッセル)、(マー ジンで、ニミッツFYROM名称問題国連事務総長特別顧問仲介の下、コジアス希外相とディミトロフFYROM外相とが名称問題に関する交渉)
- 2018年6月 チプラス希首相とザーエフFYROM首相とはFYROMの新国名を「北マケドニア共和国」とすることに合意した旨の声明を発表
- 2018年同月 ギリシャ議会野党第一党NDがFYROM国名問題等に関する合意に反対し、政府不信任動議を国会に提出→17日、議会は不信任動議を否決(127-153)
- 2018年同月17日 コジアス希外相及びディミトロフFYROM外相が国名問題等に関する協定に署名(プレスペス)、チプラス希首相、 ザーエフFYROM首相、ニミッツFYROM名称問題国連事務総長特別顧問、モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表、ハーン欧州委員(近隣政策・拡大交渉担当)、シェケリンスカFYROM副首相兼国防相、スパソフスキFYROM副首相兼内務相及びオスマ ニFYROM副首相欧州担当が署名式典に出席
- 2018年7月 NATO首脳会合、条件付きでFYROMの加盟交渉入りを承認
- 2018年9月30日 FYROMで国民投票を実施(投票率36.8%で不成立)
- 2018年10月19日 FYROMで憲法改正の審議開始が可決
- 2019年1月11日 FYROMで憲法改正が成立(81/120)
- 2019年1月13日 チプラス希首相は希議会に、政府信任動議を提案→16日、信任を獲得(151/300)