『LBJ』
『LBJ (邦題:LBJ ケネディの意志を継いだ男)』
LBJ?
ケネディ大統領はJFKと親しまれてますが、ジョンソン大統領がLBJというのは初耳でした。作中でも”ボビー”(ロバート・ケネディ司法長官)により言及されてますが、こういう呼び名が定着しているのはやはりFDRとJFKくらいですよね。
アメリカ政治の伝記物は好きな作品群のひとつでして、今年だと『Vice』は本作同様に副大統領に焦点を当てた作品でしたね。あれはあれで最高でしたよ。
リンドン・B・ジョンソンは、テキサス州選出の下院議員、上院議員を務め、上院では院内総務(53年ー61年)として立法過程の中枢を担ってきた人物です。その後、60年の大統領選では民主党党大会でJFKに敗れ、彼に請われ副大統領に就任する場面は作中でも描かれています。そして、ジョンソンはケネディ大統領のダラスでの暗殺をうけて、大統領に昇格することになります。64年の大統領選挙には勝利しますが、68年は再選に挑みませんした。
上院院内総務として議会における権力をほしいままにしていた頃から、副大統領から大統領に昇格しJFKの任期を全うするまでの時期に本作では焦点が当てられています。邦題につけられた副題はそのことを強調しているんでしょうかね。ジョンソン政権といえばベトナム戦争への対応が問題となるわけですが、本作ではマクナマラ国防長官の名前は触れられることはあっても基本的にメインストーリーとしては扱われません。対外政策よりも国内政策・内政を下敷きにした構成になっています。
テキサス州という南部出身のジョンソンにとって公民権運動への対応はある種板挟みになる課題です。リベラルなケネディ兄弟と旧態依然・現状維持を計る南部選出議員との間で立ち回る様は政治家としてのジョンソンを解釈する上で欠かせなかったのでしょう。南部議員団の位置づけ方は本作の肝にもなっていました。またジョンソン家の使用人である黒人女性の存在も忘れてはなりません。議会運営の酸いも甘いも知るジョンソンにとり、この問題を大局的見地に立ってマネージすることは自身の68年の出馬の可能性を閉ざさないためにも重要であり、本作ではそのことを正確に認識し立ち回る姿を描きます。公民権=雇用=選挙という結節点をつなぐ政治を進める姿は、ジョンソンの政治家としての器と力量をわかりやすく視聴者に示していると感じました。
予期せぬ形で大統領に就任し、権力の移行が進む様も本作の見どころです。宣誓にあたる判事がサラ・ヒューズである必要があった背景などはしっかりと伏線が引かれていましたし、司法長官のボビーとのやり取りからはそれ以前からの確執(要は世代間ギャップのようなもの)も働くものであり、オーバル・オフィスの模様替えはその象徴的な場面でした。
ある意味でボビーが毛嫌いしていたのはジョンソンに漂う古い政治家という一面でしょう。政治とは理想を実現するものだという立場にケネディ兄弟を置くとすれば、ジョンソンはその対極にあると、少なくともボビーは認識していたのではないか、そういう解釈を示しています。例えば、党大会後翌朝にJFKがジョンソンの部屋を訪ね副大統領候補の要請をした後に個別にやってきて辞退してくれと頼む姿や、朝一にオーバル・オフィスにやってきたジョンソン副大統領と大統領のいないその部屋で新聞を読んで過ごしていたボビーのやり取りなどから伺えます。必要に迫られて権力移行を進めようとするジョンソンに対して、それを早急に感じるボビーは嫌悪感すら表します。
ジョンソンが権力の頂点についた際、最初に課題となったのが政策方針です。どの程度JFKの政策を引き継ぐのか、が問われることになったわけです。そして、これらをめぐるシーンではジョンソンの葛藤する姿や強さを示す作品になっています。これは3方面で描かれていたかと思います。まずはJFK政権にいたグループの動き。彼らはJFKの政策はもちろんですがJFK個人を支持してきたという思いもあり、ジョンソン政権に残るべきか思慮していきます。次に議会時代からジョンソンを支えてきたインナー・サークルの動き。彼らはJFKを引き継いだという政権の性格上、政策の継続性は重視しつつも独自の色も出したいという思いがあふれ出ています。最後は議会演説とその原稿作成過程の中に描かれます。作成過程ではスピーチライターの抱える葛藤や苦悩もうまく表現され、出来上がった演説内容は追悼と就任をつなぐものとなっています。
本作を見て感じたのは、ジョンソンという人物の人気のなさとか人望のなさとかいったものだったと思います。ジョンソンが能力の高い政治家であることを様々に示してくる一方で、大統領選挙という「別の競争」に不可欠となる人気がどうも足りないというのがよく伝わってきました。彼のパフォーマンスによる部分もありますが、他者からのレッテルに苦労している部分もあったのだろうということを本作は描いていたように思います。
おわりに
この時期を扱った作品としては、日本では2017年に公開されている『ジャッキー』も見ておきたい作品かと思います。JFKの夫人であるジャクリーン・ケネディを中心に扱った伝記物です。